二人が部室に入ると、
中は騒然としていた。
「どうしたんだ。何かあったのか。」
「部長、山崎が退部届けを先生に出したって。
地区大会を前にどういうつもりだ。」
2年生の石田明憲が興奮した顔をして、
部長の水嶋に報告した。
3年生の副部長・吉野辰則を初め山根、天野、橘の4人は
苦虫をつぶしたような顔をしているが何も言わない。
山崎は2年ながらチームの強力な選手、
その2年生が辞めることに対して、
3年生としては未練がましい事は言いたくないようだ。
今までは弱小だったテニス部だが、
この数年少しずつ力を付け、
昨年辺りから良いところまで行くようになっていた。
それで、新学期が始まって2ヵ月、
ぼちぼち地区リーグのための練習を、
と誰もが思うようになっている時期に…
「まあ、辞めたいのなら仕方がないじゃあないか。
別に頼んで残ってもらわなくても、
石田、お前が山崎の代わりに頑張れば数は合うだろ。
3年は5名、
2年がリュウと斉藤、布施、石田で試合には十分出られる。
他の2年や1年では心もとないが、
何とかなるんじゃあないか。」
「しかし、部長…
俺なんか… みんなの足手まといになってしまいそうで… 」
そうなのだ。
この石田は中学の初めに
リュウをテニス部に誘ったぐらいテニスが好きなのだが、
はっきり言ってうまくない。
要するに、
試合になると気が弱くなるタイプなのだ。
その反面、マネージャー的なことは上手いし、
ムードメーカーでもある。
テニス部にとっては貴重な存在だが、
試合となるとあぶなかしい。
自他共に認めていることだ。
その時、テニス部顧問の川田教諭が入ってきた。
「みんな話は聞いたか。
第一試合は楽勝のはずだったが…
それでこういう組み合わせを考えてきた。
見て、感想を言ってくれ。
他の2年は1年を連れてグランド整備と自首プレーだ。
トレーニングをしっかりしてからだぞ。」
と言いながら、
川田は黒板に持ってきたメモ書きを貼った。