「リュウ、こんな所でなにしてるの。」
高校の制服を着たまま公園のブランコに腰掛けて
ボーっとしているリュウこと、高倉龍彦。
それを見て声をかけたのは同級生の北村かおりだ。
二人とも高校二年生で同じクラス、同じテニス部だ。
「かおりか。
お前こそ今頃何をしているんだ。」
「買い物。私の家は母子家庭。
母の帰りは9時過ぎだから、
いつも私が夕食を、遅い夕食だけど…
少しでも母を休ませて上げたいでしょ。」
「ふーん。偉いなあ。」
「そんなことはないわよ。
母は私のために一生懸命働いてくれているんだもの…
私には母しかいないから、当たり前よ。
ところで、リュウは何をしているの。」
「別に… 」
「ふーん。まだ家に帰っていないんだ。
心配しているんじゃあない。」
ブランコの近くに無造作に置かれている
かばんとテニスラケットを見て
かおりは気になる風に声を出している。
「・・・」
リュウの父親は高倉信秀と言う、
某私学大学の国文学教授。
今年60歳になるが、
私学だからか定年はなく、
わりとひょうひょうとしたイメージの人だ。
が、母親は
リュウがおなかにいるときに交通事故で亡くなってしまった。
だからリュウは月足らずで生まれた未熟児。
おまけに、リュウは母の顔さえ知らない。
どうやら母は、
父が40代の頃
アメリカの大学で働いていて知り合ったらしいアメリカ人。
何故か写真は一枚もない。
そうなのだ。
リュウは明らかに日本人とアメリカ人のハーフ、
肌の白さは白人の肌質、
目も髪も軽い茶色だ。
出産証明書には、
母の名はソフィア、とあるが、
それ以上は何も聞いていない。