「ところで、そのマンガの作者って結構昔からいたよね?ある意味大御所…」
「香田みさきですか?ええ。若手の漫画家さんの畏敬の眼差しを浴びるようなもうすごい方ですよ。」
要は“古株”とでも言えるだろうか、今の十代の読者はあまり手を出さない漫画家さんだ。
「美保ちゃん、ああいうの読まないの?」
颯太が指差す先は、『目の大きな女の子がイケメン男子の隣に寄り添って描かれている』タイプのマンガの山だった。
「読みますけど、あまり好きではないですね。」
「そうなんだ?」
コクン、と頷いてみせた。
「『俺様』なんて、嫌ですし。最近流行りなのかもしれませんけど。
あの雑誌の主人公ってヤりたい盛りの中学生みたいな子ばっかりで飽き飽きしてるんです。」
「ふーん…」
「だけど、あっちの雑誌はそういうのがなくて内容が濃いのが多くて好きなんです。」
あたしが指差したほうにあるマンガ雑誌は、香田みさきを含め十年以上前から漫画界にいる作家さんが多いものだ。
やっぱり長年やってるだけあってどのマンガもおもしろい。
「美保ちゃんて…」
颯太があたしの方をじっと見る。
『オタクだね』とか言ったらコロース。マフラーで縛り上げてコロース。
「コアな読者さんなんだね」
ハハと楽しそうに声をあげて笑った。
ドキリとした。