「え、でも…」
あたしが戸惑っている間に颯太は自転車のスタンドを立てて、ブレザーを脱ぎ始めた。
ふわり、と颯太の匂いがした。
__ドクン、と背中が粟立つような刺激に襲われたことは断じて認めたくない。
な、なんだろコレ、びっくりした…。
ごくりと唾を飲み込んだ。
「俺、走るから荷物は頼んでいい?」
「は、走る!?」
何でもない風にそういう颯太は、自転車のカゴに入っている鞄の横に折りたたんだブレザーを突っ込んだ。
「 で、でも自転車でも割りと急がないと朝講習に間に合いませんよ…?」
あたしたちの高校の平日は、7:40からの朝講習(いわゆる“0時限”)で始まる。
そして、ただいま7:15。
自転車での通学時間、約25分。
間に合うか間に合わないかという瀬戸際でございます。
「あー、じゃあ美保 颯太の自転車に乗りなよ」
ついににいちゃんまでそんなことを言いだした。
「でも颯太先輩…」
不意に、ポンと頭に重みを感じた。
顔を上げると、颯太が自信ありげに二カッと笑っていた。
「大丈夫!俺、中学のときは陸上部で、駅伝の県大まで行ったんだから、ね?」