「美保、今日は遅かったんだね」
リビングに駆け下りると、ちょうどブレザーを羽織っているところのお兄ちゃんがヘラヘラと笑っていた。
実にいまいましい。
「お兄ちゃん起きてたなら起こしてよね!」
「いや、美保の安らかな眠りを妨げるのはお兄ちゃんの良心が許さなくて……」
「……」
………イラッとくることがあるのはお兄さんがいる人なら分かっていただけるだろうか。
「じゃ、俺は先に行くから~」
「ん~!わはいふぉふぃふ(あたしも行く)ー!!」
おそらくあたしの為のであろうと思われる お皿にのったトーストを齧りながら、ソファに置いていたカバンを引っ掴んだ。
リビングのドアを蹴破る勢いで開けると、ちょうどお母さんが二階の寝室から下りてきたところらしかった。
「あら、そんな格好で。」
「へもーひはの!(寝坊したの!)」
一瞬、怒られるかと身構えた。
「いいわね、青春☆」
グッと天を指したお母さんの親指。
__ああ、お母さんはそういう人だったんだっけ。
「美保」
半ば呆れながら背を向けてローファーに足を突っ込みかけていると、不意に後ろから呼ばれた。