「好きな人は?」
お母さんは、変わらず穏やかな表情であたしを見守る。
「残念ながら、いないよ。それに、あたしモテないみたいで」
…ちょっと自嘲気味だったかな、今のは。
「あら、それは違うわよ」
「え?」
やけに自信満々に言い切るお母さんに、あたしはポカンと口を開けた。
「美保は可愛いわ。他の女の子も可愛いのでしょうけど、美保にしかない“良さ”があるもの」
じわ…と、お母さんの優しさが胸に沁み、頬が綻(ほころ)んだ。
「んー…、お兄ちゃんも大変でしょうね~」
「え、何でそこでお兄ちゃん?」
お母さんは意味ありげに「ふふふ」と微笑んだ。
「本当に聡は美保が可愛いからねぇ…。日々葛藤の生活なんじゃないかしら」
「ええ?意味わかんない。どういうこと?シスコン?」
あたしはズイとお母さんに迫って問い詰めた。
「牽制、よ。」
心底それが楽しいとでも思っているような顔でお母さんは言った。