「ほんとにごめんなさい。………えぇ、そうするわ。ありがとう。じゃあ。」
お母さんは携帯を耳から離すと、微妙な面持ちをしていた。
「…何て?」
あたしが恐る恐る尋ねると、お母さんは少し表情を柔らかくして言った。
「『帰省するならちゃんと連絡して』ってさ。」
「ま、当然なんじゃない?」
「もう、聡ったら!どうしてそんなにイジワルになっちゃったのっ」
お母さんは『プンプン!』という効果音が似合いそうな勢いで暴れた。
「まあまあまあ…。で、それから?」
お父さんがお母さんを鎮めながら聞いた。
お母さんはすまなそうな顔をして、遠慮がちに口を開いた。
「あの…急に飛び出てっちゃったから、ちゃんとした休みはあげられないらしくて。明日のお昼には日本を発たないといけないの…」
「…そっかー……」
あたしは何となく気落ちして、目を伏せた。
正直に言うと、やっぱり、ちょっと寂しい。
親の温もりがすぐ近くにない、というのは。
高校生になったけれど、まだ子どもで居たい時もある。
「ごめんな、二人とも。せっかく帰ってきたのにゆっくり出来なくて」
お父さんが箸を置いて軽く頭を下げた。
「仕方ないよ。二人が決めたことなんだから、俺たちがどうこう言えないし」
「聡…」
「…頑張ってよね、お父さん、お母さん。あたしたち、応援してるから」
あたしはちょっとこみ上げそうになる涙を必死に抑え、両親に微笑みかけた。
お父さんとお母さんも、揃って柔らかく微笑むと、「ありがとう。」と言った。