「でも、だいぶ急だよなー。一時帰国にしても。」
「そうねぇー…新シーズンも落ち着いてきたってことかな~?」
あたしの両親は音楽家でオーケストラに所属していて、最近はウィーンにいるらしい。
お母さんはヴァイオリニスト、お父さんはチェリスト。
日本の楽団にいたんだけど、いい年して『勉強するんだー!』って言って、二人してウィーンにあるオーケストラのオーディションを受けて見事合格し、今年の春に日本を発った。
新シーズンは秋からだけど、慣れるためって言って早めに行った。
寂しいかと言えば、そこまででもない。
何でかって、それは毎日毎日日記のようなものをEメールで(長文で)送ってよこすからだ。
【今日事務所に行く途中で可愛いネコみた!触りたかったよう~\(//∇//)\】
とか。
【今日お父さんが石畳の道で転びそうになったの~!超笑ったー!!d(・ω・)危うくチェロが飛んでくところだったのよ!笑】
とか。
どうでもよさそうな毎日の些細なことを事細やかに書き連ねてくる。
文明の利器だよね、うん。便利便利。
「まあでもすぐに向こうに戻るだろうけどねー…。」
「うん…」
何となく湿っぽい雰囲気になってしまった。
あたしはそれを振り払うように「さて、お会計お会計!」と明るく言ってレジに向かった。
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