オタクと変態であることは否定しないのかと思っていたら、あたしの下ろした髪を両手で耳の横まで持ち上げた。
ーーーー不意に脳裏を過る会話。
大きな赤いランドセルを背負ったあたしと
兄ちゃん。
『ーーいいか、』
『うん?何、お兄ちゃん』
『絶対に………たら、ダメだからな』
『どうして?』
『そうじゃないと可愛い美保を悪い奴が攫ってしまうからだよ』
『お約束?』
『うん、約束。』
あたしは兄ちゃんと指切りをしてーー、
「ーーーやめてくださいっ」
頭を無理やり強く振って颯太の手を振り払う。
食べかけの弁当にフタをし、箸もしまって椅子から立ち上がる。
振り返って颯太を見ると、ひどく驚いた顔をしていた。
「…失礼します」
何かを押し殺したような声で低く言い捨て、音楽室を後にした。
幸いなことに、颯太は追って来なかった。
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