「お前、凄いな。満点のうえに筆記体で書いてるなんて。」
気付いたら、いつのまにか俺は聡の肩を叩いて話し掛けていた。
後で気付いて自分でびっくりだ。
聡もかなり驚いたようで、ギクリという顔をして俺を見た。
「いや…別に…」
聡はチラと俺を見て気まずそうに―――焦り…?ともとれる顔をした。
「伊坂には及ばないよ。お前も満点だろ?」
「まさか。俺、英語はマジでダメなんだ。2点だ。」
「ホントかよ!?珍しいこともあるもんだな。」
掃除のために机を後ろに下げることも忘れた様子で話す俺たちを見て、クラスメイトたちは目を丸くしていた。
普段、滅多にない組み合わせだからだろう。
「理系は割りと出来るんだけどなぁー。」
「俺は理系は嫌いだな。」
「二人を足して2で割ったらちょうどいい感じになるかもしれないな。」
「はははっ」
今度こそ俺もちょっとびっくりした。
あの『平野 聡』が。親しげに笑っている。
眼鏡のレンズの向こうの目が優しく弧を描き、ふわふわした黒髪がわずかに揺れる。
笑ったところを見たのは、たぶんそれが初めてだった。
なんだ、ちゃんと笑うじゃないか。
何となく、安心した。