綺麗な髪が風に揺れる。

乱れた髪を直す仕草が妙に大人っぽく見えて驚いた。

僕は翠の横に立った。

「ここ、俺が上京してきて最初に見つけた場所。夕方になると夕焼けが綺麗に見えるんだ」

「そうなんだ……」

僕の一番好きな場所。

落ち込んだときや悩んだときは決まってここに来る。

ここから町を見下ろすとすごくスッとするんだ。

自分の悩みがちっぽけなモノに思えてくるから。

「どうしてわたしをここに連れて来てくれたの?」

「……お前に見せたいと思った」

翠は黙って僕を見つめた。

「それと……お前今日誕生日だろ?」

僕は柵に体重を掛けて、遠くを見つめながら続けた。

「祝ってやろうと思ったけど、何をすればいいのか分かんなくてさ。 そしたらここ思い出して」

溜め息交じりに言った。

「……たん、じょうび……」

「ごめんな。俺は人の誕生日を祝ったことなんて無かったから大したこと出来なくて」

翠に向き直って見ると、目を細めて微笑む顔があった。

「ううん、嬉しい」

「誕生日おめでとう、翠」

「ッ!!!」

僕が言うと、翠の目から涙が零れた。

「……おめでとうなんて、お母さん以外から言われたこと無かった……」

手の甲で涙を拭いながら言う。

それでも涙は止まることを知らず、次から次へ流れてくる。

「幾斗君……ありがとう」

「うん」

「本当に嬉しいっ……」

「……そっか」

僕は翠の頭を優しく撫でた。

「おめでとう」