きっと母は幸せだったと思う。


献身的に側に居てくれる人が居たのだから。

愛してくれる人が居たのだから。



母は亡くなった。

穏やかで、眠っているだけのようにしか見えなかったけれど
確かにこの世界から遠く離れた。

父の手を握りしめながらの最後だった。



母はずっと隠していたのだ。


病が命を脅かしていた事を。


死を恐れていたのだろう、
それによって母の精神は崩壊していっていたのだ。

父さえも母の本当に隠されていた病など知らず、
治ると信じていたのだから。


倒れ意識不明になり医師から話しを初めて聞いた時の
絶望感は誰よりも支えていた父にはショックであったろう。


意識を取り戻した時の母は久々に見た本来の母だった。

何よりも嬉しくて、
父と二人で泣いたのを覚えている。


沢山泣いた。一生に流す涙は使い果たしたと思えるぐらいに。