「ねぇ」
カタカタと鳴るキーボードの音は無機質だが、
そのシンプルな部屋にはちょうど良い音だった。
「川橋さんって、面白いよね」
松本は本から顔をあげることはなかった。
ぱら、と本をめくる音がする。
それでも、末永は続けた。
「あの子と話していると、何て言うかな。退屈しないよね」
にこにこと笑う末永。
その笑顔は、いつもと同じはずだった。
ぱら、と再び本をめくる音がする。
ぎっしりと文字が書かれた本にしては、
ページをめくる間隔が速すぎた。
「言うことはちょっと軽いけど、何だろう。とっても面白い」
窓から差し込む西日は、さっきより強くなっていた。
橙色の空の下、
橙色に染まる街を背に、松本は小さくため息をついて、その顔をあげた。
そして、末永がやっと聞き取れるくらいに小さな声で、彼は呟くのだった。
「彼女は・・・。
時々ハッとさせられるようなことを言う。
今日の授業も、・・・そして、あの時も」
末永はじっと松本の横顔を眺めていた。
無表情。
だけど、その表情の下に、いくつもの“それら”があることを、
彼は知っていた。