「末永」


西日が強く差し込む末永の部屋に、松本が訪れた。


「なに?」


「本を借りに来た」


断りもないまま、松本は末永の部屋の半分を占める本棚から、


数冊の本を取り出して、


来客用のソファに腰かける。


「そうそう」


末永はキーボードをたたきながら、


本を読む松本に話しかけた。


特に返事は返ってこない。


それでも、松本が聞いているというのは、その雰囲気で彼にはわかっていた。


「相当反響があるらしいね、例の本」


末永がそう言い終わって、しばらくの沈黙の後。


「・・・編集者曰く」


本から顔をあげることなく、松本がそう答えた。


「すごいね。僕も読んだけど、さすがだよ。感心した」


「・・・この前数冊出版社からもらったから、


一応ここの図書館に寄贈したけど、欲しければ貰ってほしい」


「もちろん。来学期からの授業で使用しようかな」


末永は松本に向かってにこにこ笑っていた。


そのパソコンの隣に、


図書館のシールの貼られた、


“論理学トレーニング”と題された3冊の本を置きながら。