「えぇ!?」
思わず大声をあげてしまい、周囲の注目を集めてしまった。
慌てて口を押える私に、マスターが笑う。
「いや、僕もかれこれ10年ほど彼を近くで見ているけど、
あんなに楽しそうにしゃべっている姿は初めて見たねぇ」
いやいやいや。
マスター、あなたの目はどうかしているって。
だって、喋っている間終始無表情だったじゃないですか。
何を言ってもずっと表情一つ変えず。
私と喋っていて楽しいなんて雰囲気、微塵も感じなかったのですが。
私が捲し立てるようにそう言うと、マスターはぎゅ、と右目をつぶった。
「あはは。きっと、もう少し一緒にいればわかるよ」
私はマスターの言葉に困惑しながらも、カップに口を付けた時。
立ち去ろうとするマスターが、くるっと私の方を向いた。
「そうそう、お代は要らないよ」
「え、なんで・・・」
「松本先生がまとめて払っていったから」
嘘。
「わわわわ、佳子ちゃん!」
「あ、あぁぁぁぁ!!」
貴重なマルコポーロが、テーブルの上に広がっている事実に気が付くのに、
私は数秒かかってしまった。