「あーあ、行っちゃった」
会計を済ませ、お店を出て行く先生の後姿を見送りながら、
ため息交じりに呟いた。
少し大きめのシャツを着て、
腕をまくる先生の後姿。
何だか新鮮だった。
「佳子ちゃん」
マスターが私に話しかけてくる。
「マルコポーロ、お代わりする?」
「あ、はい」
高いお茶だから、飲める飲んでおこう。
私は迷う事無くカップを差し出した。
マスターはカップに紅茶を注ぎながら、
私をにこにこしながら見つめる。
そして、カップを私の前に差し出す。
「佳子ちゃん、キミは松本先生と仲良いんだね」
「へ?」
私が驚いて目を丸くしていると、
マスターは腰かける私に合わせて腰をかがめ、
そっと耳打ちするように教えてくれた。
「松本先生、10年以上ここのお店の常連だけど、
末永先生以外と来ているところは見たことないね」
あぁ、と私は声をあげた。
「今日は偶然ここで会っただけですから。
たまたま一緒に食べていただけです」
「え、そうだったの?」
今度はマスターが目を丸くしていた。
「だって、あんな楽しそうな松本先生、見たことなかったから」