「・・・なぜだ?」
マスターがチラリ、と私たちの方を見た。
きっと、私と先生のカップを確認しているのだろう。
「だって・・・」
私は考える。
論理学をまだかじってすらいないけど、
少しはきちんと説明できるように努力してみよう。
「自分が好きという事は、
少なくともそのものに価値ある要素を見出しているからです」
そこまで言うと、マスターが空っぽになった私のティーカップにマルコポーロを、
そして先生のカップにはコーヒーを、なみなみとそそぐ。
会話を邪魔しないようになのか、足早に去っていくマスター。
「不十分」
「・・・う」
もう何杯目になるか分からないけど、
先生がそのコーヒーカップに口をつけながら、
私にこう言った。
「“論理学トレーニング”」
「へ?」
「キミが図書館で探して読むべき本のタイトルだ。言い忘れていた」
「あ、はい」
先生は熱いはずのコーヒーを一気に飲むと、
さっとその場で立ち上がった。
「末永は午後3時までなら空いているそうだ」
吐き捨てるように言うと、先生は伝票を持ってそのまま席を立ってしまった。