「はい、松本先生にはコーヒー。佳子ちゃんには“マルコポーロ”」
ふわっと香る、とても濃厚な甘い香り。
大輪の花のように馨しいその香りを楽しむために、
私はカップ両手に持って、鼻に近づけた。
この香りを嗅ぐと、気分は中世ヨーロッパの貴族になったような気分がする。
「紅茶?」
「はい。マルコポーロっていう紅茶です」
「そう」
あまり興味はないのか。
先生はすぐに自分のコーヒーカップを手にして、
コーヒーを飲む。
「コーヒーとは違って、独特の甘くて上品な香りがするんですよ。
先生も試されてみます?」
私がカップを差し出すと、先生は首を横に振った。
「結構」
なによ、私が親切にもこの高級紅茶を差し出してあげたのに。
コーヒー中毒患者はこの芳香な紅茶を楽しめることが出来ないなんて、
なんて哀れなの?
・・・と、内心で毒づきながら、私はマルコポーロを口に含んだ。