先生と向かい合わせのソファに座るために移動する。
あ、ふわっと香る。
ほのかに甘くて凛としたあの香り。
私が腰かけると同時に、先生が本を閉じて、
テーブルの上に置いた。
「・・・一人?」
「はい」
私がそう答えると、先生は首をかしげた。
「・・・」
あぁ。咲のことね。きっと。
「あ、咲は今、次回のゼミで発表を担当するらしくて、
それで今打ち合わせらしいんです。それで」
「いや、彼女ではないのだが」
すかさず、先生が私の答えを打ち消す。
「え?」
「いや、いい」
先生は独り言を呟くようにそう言うと、
マスターに声をかけた。
マスターはにこにこしながら、メニューを持ってきた。
「あれ、お知り合いなんですね」
「はい。いつもお世話になっている先生です」
マスターにそう紹介すると。
「特に世話はしていないが」
先生はコーヒーをすすりながらそう言葉を重ねてきた。
普通こういう時って、それが事実ではなくてもそう紹介するものなのに。
そんな先生の言い方にむっとしていると、マスターが突然声をあげて笑った。
「あはは。松本先生、ゼミの生徒さんですか?」
「いや。私が担当している授業の一生徒だ」
「そうですかぁ。そうなんですねぇ」
その時、マスターは何かを含んだような言い方をしながら、
私を見てニヤニヤしていた。