大学から歩いて5分もかからない場所に、その喫茶店はある。
大学の周辺には、全国チェーン店のカフェがずらっと並んでいるが、
私はそんなカフェじゃなくて、
少し歩いた先の、ちょっと古めかしい感じの喫茶店が好きだ。
壁にツタがはっていて、
店内は少し薄暗くて、
BGMにはジャズが流れていたりして。
「いらっしゃいませ」
案内してくれる人は、この店のマスター一人。
「こんにちは」
「こんにちは、今日は一人なんだね」
「はい。あ、今日はいつものでお願いします」
「はいはい。佳子ちゃんのよく頼むのは、“あれ”だね」
マスターは大体50歳くらいだろうか。
白髪交じりで、笑うとしわが目立つ。
でもその人懐っこい笑顔と明るさで、客の足が遠ざかる事を知らない。
私は、よく座る窓際の一番出入り口から遠い席を目指して歩き出すが。
・・・あれ、先客が・・・。
・・・。
・・・。
その席の数歩手前まで来て、その先客の顔が見えた。
何となく、その姿に見覚えがあったけど、まさか、とは思っていたのだが。
「・・・あの」
その人は、読んでいた本から顔をあげ、
私の方を向いた。
「・・・川橋さん」