「ねぇ。今日ね、末永先生、お昼は教授会があるから、


来るなら午後にして欲しいって言われて」


あ、そういえば先に今日のお昼約束があるって言ってなかった。


でも午後に行くのであれば、それでいっか。


そして、これはチャンス。


私はあえて大声で電話口で答える。


「え、本当!?大丈夫?ちょ、分かった。今行くから!そこで待ってて!」


「え、ちょ、なに突然、声大きいし・・・ツー、ツー、ツー。


「誰から?」


龍司君が不審そうに私の顔を見る。


だけど、女を舐めちゃいけない。


言い訳と嘘は女性の特権ですから。


私は携帯電話をカバンの中にしまって、上目づかいに龍司君を見つめる。


「なんか、咲から電話で、今ちょっと困ってるって言われて・・・」


「え、どうしたの、何かあったの?」


本気で心配しているような表情を浮かべる龍司君。


これくらいで罪の意識を感じていては、“女”なんてやっていられない。


私は上目づかいをしたまま、眉間に少し力を込めた。


おそらく、これで多少は、いわゆる“困り顔”を作れているだろう。


「うん、でも、ちょっとこれは“女の子”特有の問題だから、


私が行かないとダメなの・・・」


「そっか。俺にも姉貴がいるけど、女って大変だよな」


勝手に龍司君は納得してくれたらしく、


快くその場で私の“ドタキャン”を承諾してくれた。


「本当ごめんね」


「いいよ。でも、今度は絶対に一緒に食べようね」


「うん!」


きっと今の私はいつもの3割増し女子度がアップしている事だろう。


ちょろいちょろい。


私の内心を知る事なく、龍司君は、


「じゃあ、俺、少し早いけどバイト行くかな」


と言って、メンストをすたすたと足早に歩き去って行った。


私はその場で彼と別れ、彼の姿を見送ってから、哲学科の研究棟へ向かった。