授業が終わり、龍司君と一緒に教室を出た。
その時、
いつもは足早にでていく松本先生は、なぜかまだ教室に残っていた。
次の授業のために移動してくる学生とは反対方向へ歩いていく中、
龍司君がぽつり、とつぶやく。
「なんか、松本先生、いつもと少し違ったよな」
「違うって?」
「授業中、佳子ちゃんが答えたら、先生突然黙っちゃって、反論しなかったじゃん」
「あー、うん。そうだね」
「俺、あんまりあの人のこと知らないけど、
あの人って、基本的に必ず何かを言い返す人じゃないかって思ってたけど」
正直私だって松本先生の事は知らない。
嫌味で、感じが悪くて、自尊心が高そうで。
だけど。
末永先生の部屋でコーヒーを注いでくれた先生は、
教室で見た先生とは、―無表情ではあったのだけど―雰囲気がすこし違った。
上手くは説明できないのだけど。
そう思うと、なぜだろう。
不意に、先生と喋りたくなった。
「あ、あのさ、龍司君」
「なに?」
そわそわする私。
どうしよう。
どう言えばいいのだろう。
その時。
鞄の中の携帯電話がぶるぶる震え始めた。
「あ、ちょっとごめん」
急いで携帯電話を取り出すと、咲からだった。