「おはようーございまーす」
龍司君だった。
「あ、おはよう」
「・・・」
松本先生は黙ったまま、今度は教壇に置かれた椅子に腰かけて、
さっき手にしていた本を読み始めた。
何の本かはわからない。
ただ、表紙はアルファベットで何か書かれているから、
きっと洋書か何かだろう。
「佳子ちゃん、いつも早いね」
「ん、1限に丁度良い電車がなくてね」
「そうなんだ」
龍司君は横目でちらり、と松本先生を見た。
どうして見たのか分からない。
ただ、その眼は。
あまり好意的なものでなかったことは確かだった。
「さーて、1限頑張りますか」
大声で、わざとらしく両手を広げる龍司君の動作の意味は、
私にはよく理解できなかった。