「・・・そうか」
低くて、安定した音程の声。
窓から降り注ぐ朝の日の光に照らされて、
少し翳りのある先生の横顔。
表情は分からないけど、でも、その声は、決して冷たくはなかった。
「どの本を指しているのか、私にはわからない」
「え?」
私が怪訝そうな顔をすると、先生はすぐにそのあとを続けた。
「ただ、一応論理学初学者用の本であれば、所有している。
キミに適切かはわからないが、一読する価値はないとは言えない」
何とも曖昧な言い方だけど、
要はそれを読んでみることを勧められているのだろうか。
「・・・あの、で、それは貸していただけるのでしょうか?」
肝心なところである。
私のその問いかけに、先生は少し黙った後、両手に持って開いていた本を閉じた。
「自分で探してみなさい。それでなければ、私に連絡するように」
そう言うと、先生は、
持参していたレポート用紙にさらさらっと何かを書いて、
私の座る席までやって来た。
「パソコン用のPCだ。来週の授業の前日までに連絡をするように」
壮先生が言い終わると同時に、教室のドアが開いた。
先生はそちらを一瞥すると、また教壇の方へ黙って戻って行ってしまった。