夜の静かな道を一人で歩くと、


ざわつく心も静まる気がした。


しかし、今日に限って、心は静まらず、


頭は混乱する。


”あの人”


具体的な名前を末永は言わなかったが、


誰を指しているかは、推測はついた。


”もういいじゃないか”


ドア越しに聞こえた末永の独り言が、やけに耳に着く。


松本の顔は、いつもと変わらない。


何を考えているのか、一切他人に読み取らせない、


そんな表情のない顔のままでいる松本の瞳は、


どこか遠くの何かを見つめていた。



それは近くで遠い、離れた時間という流れの中で、


彼にしがみついてきた、取れないすべて。





「そんなことは・・・知っている」


ぽつり、とこぼしたその言葉が、松本の考えすべてを物語っていた。