「・・・ふふ」


パソコンのキーボードを弾く音だけが響く部屋に突然、


末永の笑い声が響いた。


まるで何かを思い出して笑うような、そんな雰囲気の笑いだった。


「どうした?」


ソファに腰かけて、10インチのノート型パソコンのキーボードを打つ手を止めて、


顔をあげたのは松本だった。


「いや、・・・ただ、ね」


末永は立ち上がり、松本の座るソファの前にあるテーブルの上に置かれた、


空っぽのコーヒーカップを持つと、 


自分のカップと一緒にコーヒーメーカーの前に置いた。


「自惚れだったのかなって」


「・・・何が?」


フレッシュなコーヒーの香りが漂ってくる。


湯気で少しだけ曇ったメガネを掛けなおしながら、


末永は松本にコーヒーを渡す。


「僕だけだと思っていたからだよ」


「・・・?」


末永先生の微笑みはとても優しく、温かい。


それを見つめながら、松本は首をかしげる。


「キミが興味を持つ人間はね」


「・・・言っている意味が分からないが」


少し不機嫌そうに返す松本に対して、


末永の顔は変わらない。


笑顔のまま、自分の席に戻っていく。


「そのままの意味だよ。


つまり、キミは僕以外の人間にも興味を持ちだしたんだね」


「私は別に、キミ以外の人間にもともと興味がある。


例えばデカルトにも興味があるし、ラインホールド・ニーバーの・・・」


「違うよ。そういう意味ではない」