「先生には、色々な表情や姿があるんだなって、そう思ったからです」


しん、と静まった部屋に、私の言葉だけが響いた。


人が2人いるのに。


呼吸の音すら、聞こえない。


聞こえるのは、私の心臓の鼓動と、外から聞こえるクラクションの音。


あぁ。


どこか遠くでサイレンの音が響いているのかもしれない。


この時、静寂とは、こういうものだと、初めて知った気がする。


音があるべき空間に、音の存在しないこの瞬間。


その静寂のなか、私は両手にコーヒーカップを持ったまま、ただ先生を見つめていた。


先生はその大きな瞳をじっと私に向けるだけで、


持ったコーヒーカップに口をつけようとせず、


固まってしまったかのように見えた。







「・・・はは」








ようやく聞こえたのは、先生の乾いた笑い。


「キミは・・・いや、キミらしい答えだね」


呆れているのだろうか。


困惑しているのか。


どっちかは判別がつかなかったけど、


先生のその言葉は、


私を褒められていなければ、貶されてもいない気がした。