しんと静まり返った部屋。


窓の外から聞こえてくる車のクラクションの音が、


唯一の救いだった。


あと、私の耳に聞こえるのは、


私がサンドイッチをむさぼる音と、


向かい側に座る目の前の・・・松本先生がコーヒーをすする音だけ。


私は、応接用のソファに腰を掛け、


テーブルを挟んで、松本先生が座っている。


私は視線をどこに定めてよいのかわからず、


ただ無心にサンドイッチを食べていた。








話は、約10分前にさかのぼる。


末永先生が電話を切ってしばらくしてから、誰かがドアをノックする音がした。


「どうぞ」


末永先生が返事をすると、ドアが開く。


ドアと壁の間に見えたその姿に、私は言葉を失っていた。


「ごめんね、突然呼び出して」


「いや。・・・しかし、何の用事だ」


不機嫌そうな、不機嫌じゃなさそうな、


どっちか判断できない表情を浮かべる松本先生。


「松本、今忙しい?」


「いや、昨夜には論文を推敲し終わっているので、ちょうど時間があるところだが」


「そうか。じゃあ丁度良かった」


末永先生が満面な笑みで私と松本先生を交互に見た。


そして。


「じゃあ、今日は悪いけど、松本にお願いするよ」


末永先生は、ぽん、と気軽に松本先生の肩を叩くと、


”それじゃ、午後までには戻ると思うので、留守番宜しく”


と言い残し、部屋を出て行ってしまった。






私は、この時心底後悔した。


”哲学に興味がある”なんて言うから。


末永先生は要らない気まで回してしまって。





私は直々に、「松本先生」からレクチャーを受ける羽目になってしまった。