パソコンルームのある建物を抜け、しばらく歩くと、
キャンパス内の桜並木に出た。
もう、桜のピークは過ぎたけど、
桜吹雪が舞う様子は、本当に幻想的で、一瞬、現実の世界を忘れそうにもなる。
「ち、ちがうから!」
私の隣では、さっきから、その頬を、桜と同じピンク色に染めて、
必死になって否定する咲の姿があった。
「はいはい。そうやって必死になるところからして怪しすぎるよ」
「だから、そういうのじゃないって!私は、」
「あー、別に恥ずかしがることじゃないじゃん。
好きな人がいるって、幸せなことじゃない?」
「だから、違うんだって!」
咲が激しく頭を横に振る。
素直じゃない親友をからかうのは楽しい。
こうやって必死になって否定されると、益々からかいたくなってくる。
「人を好きになるってさぁ、・・・いろんな感情を覚えるじゃん?
わくわくしたり、ときめいたり、悲しかったり、苦しかったり。
それがさ、全て等しく素晴らしいものに見えてくるのが、「好き」ってことだよね」
我ながらカッコ良いことを言った、そう思って胸を張ろうとしたが。
「あ、・・・ちょ、あぶない、佳子」
「え」
どん!
突然、目の前が真っ暗になって、大きな衝撃を顔に感じた。
よそ見をしてしまったからだろう。
衝撃の反動で、思わずうしろによろけ、尻もちをついてしまった。
「だ、大丈夫?」
咲が急いで私のところに駆け寄ってくる。
「うん、平気、平気」
落としてしまった鞄を手に持ち、立ちあがろうとした。
その時。
「気をつけなさい。横を向きながら真っすぐ歩くことは、君にできるのか?」
低く、安定した声。
心地よい声ではあるが・・・私、皮肉られているよね。
謝るどころか、反論しかけて、目の前にいるはずのその人の姿を捉えようとするが。
「あれ?」
その人は、もう目の前にはいなかった。