「あ、ちょっとごめんね」


先生の机の上に置かれた固定電話のベルが鳴る。


「はい、末永です。・・・えぇ、・・・あ!そうですか、了解いたしました。


いえ、わたくしの方からお伺いいたします。はい、・・・あ。いえいえ。


とんでもございません。はい、それでは失礼いたします」


先生は、受話器を電話に戻すと、突然立ち上がり、


急いで鞄の中に色々なものを詰め込み始めた。


「川橋さん。ちょっと僕の方も急用が入ってしまったみたいなんだ」


「え?」


「ちょっと出版社の方から、僕の論文についての問い合わせがあるみたいで。


すぐそこの出版社だから、すぐに戻ってはこれるのだけど」


ラッキー。


これはチャンス。


よし、これで先生と一緒に部屋を出れば一件落着。


「じゃあ」


「あ、でも大丈夫。哲学のことなら」


そういうと同時に、先生はどこかに電話をしだした。


「ごめん、悪いけど、今大丈夫?・・・そう。うん、でね、悪いのだけど」


電話の相手が誰なのかは分からないけど。


ただ、その電話の趣旨が、


私の望んでいるものとはどうやら正反対のもののような気がしてならなかった。


「今すぐ僕の部屋に来てくれないかな」