時刻は午前11時30分。


咲と、11時30分に、


哲学科の研究棟の出入り口前で待ち合わせってことになっているのに。


「どうしたんだろう」


咲が遅刻とは珍しい。


待ち合わせをしても、私が遅刻することがあっても、


咲が遅れるという事は一度もなかった。


仮に遅れるとしても、几帳面な彼女だから、


律儀に待ち合わせの5分前くらいに連絡をくれそうなのだけど。


「・・・もしかしたら、先生の部屋に先に行ってたりして」


そういえばこの前、冗談で、


”早く先生のところに着いたら二人っきりで楽しんでね”


と言ってはおいたけど。


となると、邪魔しないほうが良いか。


そう思って、その場を立ち去ろうとしたが。


「でも、もし来てなかったとしたら?」


そうすると、私が無断で約束をすっぽかしたことになる。


末永先生に対して私自身が何かあるわけじゃないけど、


ドタキャンは失礼になってしまう。


一応先生の部屋の前まで行って話し声が聞こえたら帰ろう、


そう思いながら、私は研究棟の中に入り、エレベーターに乗った。