「はぁぁぁぁぁ」


授業が終わって松本先生が足早に教室から出て行くと同時に、


私は大きなため息をついて、机の上に突っ伏した。


「おつかれー。災難だったねぇ」


隣の龍司君が呑気にそう話しかけてくる。


「何よ。他人事だからって」


私が恨めしそうに龍司君を睨みつけると、


彼はあははと高らかに笑う。


「いやさぁ。授業中ほとんど答えさせられていたのは佳子ちゃんだったから」


「だってひどくない!?みんな、”分かりません”って答えるなんて」


私はきづいていた。


授業中、周囲の学生たちから向けられる同情を込められた視線に。


「でも、それで先生が質問したのに対して答えられる佳子ちゃんに感心したよ。


いきなり”エロス”とか言うから、どうしちゃったのかと最初は思ったけど」


「あー。”愛”のこと?」


他の質問はたじたじだったけど、


”愛”の種類についてだけはまともに答えられた。


「なんで知ってたの?」


「あぁ・・・。それは」


それは、とても単純で、だけど、まだしゃべるには少し照れくさい。


「ちょっとね。調べたことがあったの。昔、何か課題があってさ」


「へぇ」


龍司君は納得してくれたのか、持っていたカバンにノートと筆箱を片付けると、


それを肩にかけて、私の肩にぽん、と手を置く。


「じゃあ、そんな優秀な佳子ちゃんに、僕がお昼をおごってあげようか」


嬉しい申し出だった。


クラスで1位2位を争うイケメンと二人っきりで食事ができる。


だけど。


「ごめんね。先約があるの」


「えー。誰と?」


「咲と、一緒にお昼を食べるって」