教壇から聞こえてくる、心地よい安定感のある声。


思わず聞き惚れそうになるが、姿を見れば、現実がそこにはある。


声の主は、あの皮肉で感じの悪い松本先生であるという現実が。


「今回の授業からは、ソクラテスメソッドで行う」


・・・ソクラテスメソッド?


なんだっけ、それ。


どうやら周囲も同じように考えているのだろう、


皆ぽかん、と口を開けてただ前を見つめているだけだった。


さすがに学生から何のリアクションもないことに、


松本先生も少し説明の必要があると思ったのだろう、


大きなため息と、不要な”前置き”を付けて、


ソクラテスメソッドについて説明を始めた。


「ソクラテスメソッドすら知らないなんて、


大学における学問を行ったとは到底信じがたいが――。


簡単に言えば、予習を行ってくることを前提に、


私が一方的に講義をするのではなく、


私の行った質問にきちんと答えるという形式で授業が進んでいく」


皆、何も言わない。


しかし、皆が何を考えているのか、それは簡単に想像がついた。


私だって例外じゃない。


”面倒くさい”


それしか思っていないはずだ。


「しかし、前回は予習すべき課題を出していないため、


今回は前回キミたちが提出したペーパーについてディスカッションしていこう」


そういうと同時に、先生は教壇の上に置かれた1枚の紙を手に取った。