「ねぇ、何が楽なの?」


正午を回った食堂は、たくさんの人でにぎわっている。


私たちは、窓際のテーブルで向かい合って昼食を食べながら、


履修要項とにらめっこしていた。


まぁ、にらめっこしているのは私だけなんだけど。


「まったく、とっとと早く履修しないから」


怒ったようにそう言う私の目の前に座る親友は、


今年の必修授業だけに丸をつけた要項を既に閉じている。


「だってさ、1年生の時って遊びたいじゃん?」


「もう4年生ですけど」


「・・・」


私、川崎佳子は、大学4年生。


就職困難の今の時代、


他人より早く就職先を見つけてしまった超ラッキーガールではあるものの、


実は、卒業要件である、


一般教養の授業を4単位分、つまり1年間分履修していなかったのだ。


卒業しなければ、就職はできない。


そのためにも、確実に単位を取れる授業を履修しないと。


「ねぇ、どれが楽だった?」


「・・・どれも楽じゃないから」


親友の咲の言葉をさえぎり、私は続ける。


「あ、ねぇ、そういえば、昔誰かが、哲学って超楽って言っていた気がするんだけど」


そういえば、そうだ。


昔、誰かが、哲学の授業が楽だって言っていた気がする。


簡単なレポートを毎回提出すれば、それだけで単位が取れったって。


「・・・ねぇ、それって」


「よし、これに決めた」


私は、そこにマークをつけて、履修要項をたたんだ。


「よし、これで心置きなく卒業できるぞ!」


私は、伸び始めているラーメンの中に箸を突っ込み、思い切りすすった。


「・・・はぁ」


咲のため息を、私は聞き逃していた。


まさか、この先に、思いもしない展開が待っていたとは。