「なんだかなぁ」
末長先生がいなくなった途端、
私は両手を頭の後ろに回して、足を投げ出すように座った。
「どうしたの?」
「末長先生って、ちょっと軽そうじゃない?
あんな風に賭けしましょう、とか言っちゃって。咲、大丈夫なの?あの人」
「・・・そんな人じゃないもん」
珍しく咲は不機嫌そうに口をとがらせる。
いつもはニコニコしていて、うんうん、とうなずくだけなのに。
「へー、じゃあ、どんな人なの?」
「・・・それはね・・・」
咲が、何かを考えるかのように目を泳がせていると、
部屋のドアが開いてしまった。
この部屋の主のお帰りだ。
「お待たせ。2人ともコーヒーで良いかな?」
どうやら私たちの為にコーヒーを淹れてくれたらしい。
「ミルクと砂糖は、ボクの机の上にあるから」
綺麗に整理された机の上に、
小さな籠が置かれている。
リボンが巻かれていて、可愛い。
・・・どう考えても、女の子からでしょ、これ。
咲の方に目を遣る。
こんな男、絶対女たらしだよ、
そう暗黙のメッセージを伝えようとするが、
咲はただ嬉しそうにそこからコーヒー用のクリームをいくつか取り出していた。
(咲って純粋なんだなぁ)
感心して良いのか、呆れるべきか。
いまいちよくわからなかったが、
とりあえず私もクリームを1つもらって、
かき混ぜたコーヒーの中にクリームを混ぜる。
それはぐるぐると綺麗な縁を描いていき、
次第にゆっくりと薄い茶色へと色を変えていく。
それをじっと見ていると、何故か心が落ち着かなかった。