松本先生の隣に座った瞬間。


ふわり、と甘い香りがした。


何だろう。


その香りは一瞬だけで、消えてしまったけど、


確かに甘い香りが、私の鼻をくすぐった。


花のような、ううん、そんな甘くは無い。


甘いけど、どこかに鋭さを隠している、そんな香り。


どこからしたのだろう、気になったけど、


それがどこから香ったのかが分からなかったせいで、


結局、その香りの原因は突き止められなかった。


「さて、変わり者の代表である哲学教授の部屋で昼ご飯を食べたいという、


希有な学生さんたちと、どんな話をしようかな」


にこにこと笑う末長先生の隣で、


咲はがちがちに固まっていた。


つん、と肘で咲をつついてみたものの、何も反応は返ってこない。


はぁ。


「そうですねー。それじゃあ、先生について、色々教えてもらえると嬉しいです」


「僕について?」


「はい。何でも良いです。あ、例えば、先生の研究分野とか」


もう、どうにでもなれ。


こうなったら私が話題作るしかないじゃない。


「僕の研究分野か」


少し思いに耽るような仕草を見せた後、末長先生が顔を上げ、


松本先生に顔を向けた。


「松本の研究分野の方が面白そうだよね」


「・・・私の?」