「ほら、昨日メールしたんでしょ」
「う、うん。・・・でも」
「ほら、それなら大丈夫だから、グロスもばっちりだし、いつもより3割増し可愛い」
「そういう問題じゃないし・・・」
壁に張り付いたまま動こうとしない咲を無理やり引っ張って、
私たちは哲学学科の研究棟に来た。
「明日のお昼から今後、先生の部屋に行っても良いですか?
哲学についていろいろ聞きたいので」
半強制的に咲にメールさせて、今日の昼休み、アポを取った。
これで正々堂々と先生の部屋を訪れることが出来る。
話題なんてなんだって良い。
会う、というのが重要なんだ。
会う頻度が高いほど、恋愛に発展する確率もあがるって、
この前美容院で読んだ雑誌に書いてあった。
それなのに、
この美人な親友は、怖がって中々前へ進もうとしない。
「ねぇ、じゃあ私一人で先生の部屋に行って、楽しい時間過ごしても良いの?」
「・・・」
まぁ、私一人で入っても、全然楽しいわけがないけど。
肩につきそうな髪を掻き上げて、
私は小さくため息を吐いたが。
「・・・分かった。行く」
小さいが、はっきりと、そう咲が呟いた。
「よし、そうときまれば、行くよ!」
先生の部屋の場所は、もう確認済みである。
私たちは、足早に先生の部屋の前へを向かう。
静かな廊下に、
カーペットになっているにもかかわらず、私たちの足音が響いた。
「Pro.SUENAGA」
そう書かれた、プレートが掲げられた部屋の前。
咲は、緊張しているのだろう、さっきから何度も深呼吸を繰り返している。
私は、咲が息を吐き切るのを見計らって、
まっ白いドアをノックした。