「ちょ、佳子、大丈夫?」


驚いた反動なのか、立ちあがったせいで、


テーブルの上のコップをひっくり返してしまった。


お気に入りのワンピースが、びっしょり濡れて気持ち悪い。


「・・・君は何か、論理上有り得ないモノでも目にしたのか?


まぁ、人間が存在する意義を証明することが出来れば、


私もそれぐらい驚くかもしれないがね」


この皮肉り方。


この声。


松本先生がどうしてここにいるのよ!


「松本、どうしたの?」


末長先生が、手を止めて、松本先生の方に顔を向けた。


「悪いが、部屋のカギを貸してくれないか。パソコンを使わせてほしい」


「あぁ、良いよ」


スーツのポケットから鍵を出し、松本先生に手渡す。


松本先生は、それを手にする途端に、スタスタとその場を離れて行った。


右手には、コーヒーと、パンらしきものを持っている。


「君、松本先生を知ってるの?」


少し不思議そうに、末長先生が尋ねてきた。


「え、あ、まぁ・・・」


歯切れの悪い私の答えに重ねるように、咲が代わりに答える。


「実は、この子、一般教養を履修しきれていなくて、今、哲学基礎を取っているんです。


それに、この前、メンストで、松本先生に思いっきりぶつかってしまってもいて」


「あぁ、なるほどね」


ふふ、とおかしそうに小さく笑うと、彼はフォークとナイフをもう一度手に取った。


全然、私はおかしくないんですけど!


思わずそう口にしそうになりながらも、


鞄から取り出したタオルで、水を吸い取らせていると、


更に末長先生が尋ねてきた。


「で、どう?どれだけ授業に残ってくれる人がいそう?」


私はつとめて真実だけを伝えようとした。


「そうですね、少なくとも1年生は全員止めそうです」