「先生って、本当に不思議な人ですよね」
以前行ったセリフを、私はまた口にした。
でも、今口にしたのは、あの時とは違う。
もっと具体的に、不思議だと思う根拠があった。
「・・・また?」
先生は鼻で笑ったけど。
でも、私は気が付いている。
その口角が、少しだけ上がっているのを。
「理由は?」
もう口ごもることはない。
間髪入れずに答えを口にした。
「いつだって先生は客観的であろうとしている。
だけど、同時に自分自身、
・・・主観もきちんと見ようとしている。凄いですよね、私にはできない」
だから顔に出さなくても。
先生は感情豊かだって分かる。
隣で座る先生の顔は、やっぱり相変わらず無表情だけど。
私と先生の間で流れる沈黙は、
決して居心地の悪いものじゃない。
「さぁ。どうだか」
先生はそれだけ言うと、その場ですぐに立ち上がって歩き出した。
「ちょ、先生!」
私も急いで先生の後を追う。
「どこ行くんですか?」
先生が立ち止り、後ろを振り向く。
私より15センチ高い場所にある先生の顔を見つめた。
「謝らなくて良いのですか?」
瞳に映る私は、少し困惑した表情を浮かべながら。
「・・・はい」
エリーゼに到着するまで、私は一言もしゃべらなかった。