「先生は、・・・そうなる時があったんですか?」


ざわ、と風で揺れる桜の木が音を立てる。


先生の前髪が、先生の目を隠す。


見失わないように、その視線の先を探す。


だけど、その先に私はいない。


「・・・若い頃、キミと同じくらいの時はあったかもしれない」


前髪がかかるせいなのか、


それともその視線の先にある過去に懐かしさを覚えているからなのか、


私にはわからない。


先生の目が、すっと細くなる。


「今は?」


先生はしばらく黙った後、静かに呟いた。


「・・・分からない。まだ、振り返ることが出来ないから」


その時、なんとなく、私にはわかった。


先生が皮肉ったり、嫌味を言う理由を。