「・・・別に、思いませんが」
「・・・は」
予想外の答えに、私は変な声を出してしまった。
でも、先生はそのまま、まっすぐ前を向いて、
組んでいる足の膝を抱えている。
「そんなものなのでしょう、人間なんて」
「・・・」
普段は静かな先生は、いつも以上に饒舌だった。
「人間など、欠陥だらけ。
理想通りに動きたいのに、
くだらない感情に振り回されて、それが足かせになる。
・・・ごく当たり前のことですよ」
さっきまで涙がこぼれないようにするのに必死だったのに。
先生の言葉がすっと心に入り込んできて、
涙を出していた蛇口がぴたっと閉められたような気がした。
無表情の横顔だけど。
その眼は、少し遠い。
きっと、どこか、
私の知らない過去を、見ているのかもしれない。
「・・・先生」
私は、しゃん、と背筋を伸ばした。
先生が初めて私の方を向いた。
無表情のままだけど。
嫌味で、皮肉屋だけど。
きっと、この人は、悪い人じゃない。
私は、確信していた。