気まずい沈黙が流れた。


こういう空気にしている張本人が私だってことも分かっている。


“なんだー、そうだったんだ。良かったねー”


そう笑ってしまえば済む話なのに。


でも。


それでも、私の頭の中で交差する感情は、


ぶつかり合う衝撃を収めることはできなかった。


「・・・ゴメン、ちょっと帰る」


私は立ち上がり、カウンターまで早足で向かった。


「佳子!」


咲の声が追いかけてくる。


でも、振り向くことはしない。


「あ、佳子ちゃん」


マスターも困惑したような表情。


悪気なんてなかったのに、マスターにまで嫌な思いをさせたのかもしれない。


だけど。


今は自分の感情が最優先だった。


「お釣り要りません」


私は貴重な1万円札をレジに置いて、出入り口のドアの取っ手を握る。


押すと、カラン、カラン、と鳴る鐘の音。


私は一目散に店から走り去っていった。