「哲学基礎ってさぁ、・・・確か、1年の時、咲、履修してたよね」


「うん」


「どうして難しいって言ってくれなかったのさ」


「うーん、1年の時は、・・・」


そう言いかけた瞬間、咲の頬がぽ、と少し赤く染まった。


「・・・その、末長先生だったから」


「・・・この前の?」


「うん」


あぁ、そういうことか。


1年生の一般教養で出会った末長先生に、


一途な想いを抱き続けてきた、と言うわけか。


咲らしいというか、なんというか。


「だけどね、確か、その年の夏から、先生はサバティカル(※)に行ってしまって。


それで、その代わりに、確かその松本先生が来たんだよ」


「だから、見覚えがあるって言ってたんだね」


「そう」


ふぅ、と本日2度目のため息をつきつつ、私は、食堂の窓から見える光景に目を移した。


20階近くある建物の5階にある食堂からは、


都会の街並みと、忙しく動き続ける車が列をなしているのが見える。


その中に、うっすら映る私の表情は、案の定、暗い。


「ま、頑張りなよ」


「・・・他人事だからって・・・」


3度目のため息が出そうになった瞬間だった。


「あ、武藤さん」



















※サバティカル

大学教員が研究のためにとる長期休暇の事。
大体半年から1年前後の期間。