キャンパスに到着すると、
普段たくさんの人が歩いているメンストはガラガラだった。
本当に誰もいない。
清々しい空気の中を、私一人で歩いているのも悪くない。
緑の生い茂るなか、美味しい空気を胸一杯に吸い込んで、
メンストの中央を闊歩していると。
「・・・あ」
いつも通る桜の木の下に設置されたベンチに、
今日も誰かが座って本を読んでいる。
思えば今年の春からあの姿を見かける。
いつも分厚い洋書を読んで、足を組んでいるあの人。
桜が舞う中で本を読む姿も幻想的で素敵だったけど、
新緑に差し込む日差しの中で本を読む姿も、それはまた素敵だった。
いつも行き交う人の陰に隠れたりして、
視界の端に映るだけだったけど、
今日は誰にも邪魔されずに見ることが出来る。
ちょっとうきうきしながら、
その人に気付かれないように、
それでも歩く速度を遅くして、
その人の姿を見つめながら、私は前を歩いて行った。