「先生」
佳子がそう呼びかけると、松本先生は振り向いた。
いつもと変わらない、無表情な顔。
でも、なぜ先生は、佳子の呼びかけに答えるのだろう。
「先生はどうしていつも無表情なのですか」
彼女は不仕付けにも、そんな質問を先生にしていた。
松本先生はその場でしばらく、じっと彼女を見つめたあと、
立っていた場所から数歩、私の立っている方へ歩き出した。
しかし、先生は彼女のところまでは来ない。
それは、彼女には分かっていたことだった。
「表情を浮かべなければならないのだろうか?」
「だって、感情を持っていれば、自然と表情に現れるじゃないですか」
「・・・そもそも、感情とは何か、君は知っているのか?」
先生はそう言うと、
再び彼女に背を向けて、その場を離れていった。