「・・・どうして?」
咲は振り向きもせず、そう返してくる。
何だろう。
咲のその、何かを探るかのような声は。
「いや、咲の作るごはんって、人参がいつも入っていないから」
咲はお盆にコーヒーと、私用に紅茶のティーバッグを入れたカップを2つ、
お盆の上に載せて、ようやく私の方を振り向く。
「そうだね。あんまり得意じゃないよ。食べられないわけじゃないけど」
「ふーん」
上手くあしらわれてしまった感じだ。
でも、これ以上追及したところで何か意味がある訳でもないし。
私はそれ以上人参について尋ねることなく、
咲と他愛のない会話をしながら、ビーフシチューを楽しんだ。