「ほう。

では、アプローチから逃げたわけではないと?」

「そうだって。」

「まぁ、それはさておき、お疲れ様です。

お水をどうぞ。」

「サンキュー。」


「あ。」「おや。」

手が触れ合う。

「わ、悪い!」

幸大が手を引く。

「おやおや?

これは私からのさりげないアプローチです。

疲れを自然な流れで労い、さらにあえて、コップを両手で持ち必ず手が触れ合うという持ち方をする。

そこから手を引くのは逃げではありませんか?」


「いや、これは、」

「逃げではないならば、私のしなやかな手ごとコップを握りしめてください。」


「…上等だ。」

叶の手もといコップを触ろうとする。



「岡田君!」

楓が大きな声で名前を呼ぶ。


「な、何だ?」

「あ、いや、その、えっと、商品の補充、終わったから!」


「ああ、じゃ、行ってくる。」

「逃げじゃない、仕事が優先なだけだ。」

「そうですか?

それはそうと、楓さん、顔が赤いですね?熱でも?」


「本当だ、大丈夫か?」

「そこは、額に手を当てて熱を測るべきでは?」

「それは楓が嫌がるだろ?」

「その本人は前髪を上げて準備万端の様ですが?」