僕の嗚咽は止まらなかった

兄の愛から切り離される悲しみが

全身に満ちていた

「うっ…う…ううっ」

慟哭とはこういうものなんだと

僕は思った

シンクの縁を握った手が痺れて

切った片手がシンクから滑り落ちた



「な…んで…なんで分かって

くれな…いの?僕が大事なものを

知らないの?…僕の人生よりも…

大事な人を取り上げるの?…僕より

僕自身より大切なものを…僕から

奪うの?」

兄は僕を後ろから抱きしめながら

静かに答えた



「…お前はまだ高校生なんだお前は

まだ知らない事がいっぱいある…お

前はもっと経験するべき事が山ほど

あるんだよ…俺だけを見てたら気づ

けないことがお前の未来には広がっ

ているんだ…お前は本当に優しい…

泣きたくなるほど優しい…壊れた兄

貴を救おうと自分を全て犠牲にして

俺を愛してくれたんだ…最低の人間

をお前は恨むことも憎むこともなく

精一杯の優しさで受け入れてくれた

…俺は悪夢の中に生まれたけど天使

はどんなところにも…地獄にも救い

に来てくれるんだと…はっきりわか

った」

兄は僕を強く抱きしめた

「…お前が俺を親父のいる病院に

連れて行ってくれた時…俺は

親父を初めて許そうと思った

俺はあの時初めて親父が最期に

俺を愛そうとしているのを知った

だまされてひどい目にあった俺の

ことを本気で…本気で心配して…

あの親父が…悪魔が…俺を初めて

息子として…欲望の捌け口ではない

親として…愛してくれた…俺は

お前のおかげで初めてあいつの

息子になれた」

兄は僕に話し続けた