触れた彼女の口唇は、やっぱり、やわらかくて。

夢中になりそうだった。



「…な、……なんで…」



それを留めたのは、やはり彼女で。
震える声音に視線を落とせば、常でも大きな瞳が見瞠られていた。

まるで、そこからこぼれ落ちてしまうんじゃないだろうかという程に。


そんな彼女を目にした途端、後悔にも似た罪悪感が沸いてくる。


「…悪い、桐生」


気付けば自然と謝罪していた。
けれども、それは大事なことを伝えずに感情で突っ走ってしまった自分への反省からでたものであって。

決して、彼女を傷つけようとして発した言葉ではなかったのに───


大きく見瞠られていた黒目がちな瞳から、ポロリと水滴がこぼれ落ちた。








 ◆








視界を覆う白は、先生の着ている白衣。
押し付けられた鼻先に芳る薬品と背中に廻された腕で気付く。


先生に抱き締められているのだ、と。



初めての腕の中。



混乱も手伝って、されるがまま。腕の中に収まっていたら、長い指に顎を掬われて。

見上げる視界の、その眼前に先生の顔が迫ってきた。



それでも、私は動かないまま。



……動けない、まま───