9時48分発、グラスゴー国際空港行き、エアバス・287号便。2号室。

 窓側の席に座る若い銀髪の男が、差し込む陽光でナイフを光らせていた。

「時間です」

 向かいの席に座っていた若く彫りの深い男が、アナログ時計を見ながら、そう言ってスーツの外ポケットからサングラスを取り出した。

「随分と気合が入ってるじゃないか」

 何かを背負いながらニヒルな笑いを浮かべて言う男に、彼は微笑んで「初仕事ですから」と答える。彼の背中には、十全にも既にそれが背負われていた。

「そうだな。だが忘れるな、これはお前の初仕事である前に――」

「私達祖国の敵討ち、ですね」

 2人はそろって冷笑を浮かべると、銀髪の男はサングラスをかけて立ち上がった。

「普段とは違って無線が無い。連絡が取れない以上、時間にはシビアに行くぞ」

「はい」

 そう言って、彼らは半自動ドアをくぐる。飛行機の最前部は、そのすぐ目の前にあった。

 機内には3列にコンパートメントが続き、その間に2つの通路がある。そしてその2つの通路は、コンパートメントが5部屋ごとに途切れることによってできる通路でつながっている。

 最前列、つまり乗務員の控え室の手前でももちろんつながっているが、乗務員室への扉は左側の通路にのみあった。昨今の世界的な情勢不安により、機内の警備も厳重化されて防弾できる扉がついたわけだ。

 だがいかに頑丈な警備であっても、使う者が無能では意味をなさない。

 銀髪男がノックするとすぐさま1人の若いキャビン・アテンダントが顔を覗かせ、横で待ち構えていた後輩男に銃を突きつけられた。

「動くな」

 そう言って、怯える彼女を先頭に彼らは乗務員室へと押し入った。

 他のコンパートメントを2,3倍大きくしたような部屋に入ると、状況を飲み込めぬ客室乗務員達が怪訝な表情を浮かべ、やがて状況を飲み込んで身を凍りつかせた。

「動くな。貴様ら誰かが少しでも余計な動きをすれば、この女の未知数の余命が一瞬でゼロになる」

 銀髪男の冷酷な声は、飛行機が彼らの支配下に置かれたことを表していた。